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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)260号 判決 1992年7月20日

平成元年(ワ)第二六〇号及び同第九五九号各事件原告(以下、単に「原告」という。)

株式会社本家かまどや

右代表者代表取締役

金原弘周

右訴訟代理人弁護士

武田雄三

平成元年(ワ)第二六〇号事件被告(以下、単に「被告会社」という。)

ツキタ興業株式会社

右代表者代表取締役

月田昌秀

平成元年(ワ)第九五九号事件被告(以下、単に「被告月田」という。)

本家かまどや呉服店こと

月田英子

右両名訴訟代理人弁護士

長池勇

主文

一  被告会社は、原告に対し、金八〇五万五二二九円及びこれに対する平成元年二月二六日から支払い済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告会社は、西宮市石刎町一番一八号において、持ち帰り弁当等飲食物の加工販売の営業をしてはならない。

三  被告月田は、原告に対し、金二七五万円及びこれに対する平成元年六月三〇日から支払い済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

四  原告の被告月田に対するその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告と被告会社との間においては、原告に生じた費用の二分の一と被告会社に生じた費用を被告会社の負担とし、原告と被告月田との間においては、原告に生じたその余の費用と被告月田に生じた費用を二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告月田の負担とする。

六  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(平成元年(ワ)第二六〇号事件)

一  請求の趣旨

1  被告会社は、原告に対し、八〇五万五二二九円及びこれに対する平成元年二月二六日から支払い済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告会社は、西宮市石刎町一番一八号において、持ち帰り弁当等飲食物の加工販売の営業をしてはならない。

3  訴訟費用は被告会社の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(平成元年(ワ)第九五九号事件)

一  請求の趣旨

1  被告月田は、原告に対し、四二五万円及びこれに対する平成元年六月三〇日から支払い済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告月田は、大阪府池田市呉服町八番一九号において、持ち帰り弁当等飲食物の加工販売の営業をしてはならない。

3  訴訟費用は被告月田の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(平成元年(ワ)第二六〇号事件)

一  請求の原因

1  原告は、持ち帰り弁当等飲食物の加工販売店経営の総合指導及びそのチェーン店の経営の総合指導を目的とし、本家かまどやチェーン店の事業本部等を営む株式会社である。

2  被告会社は、原告との間で、次の(一)ないし(三)に記載の各店舗につき、それぞれ契約締結日記載の日に、いずれも請求の原因3に記載した内容の本家かまどやチェーン加盟契約(以下「本件加盟契約」という。)を締結した。

(一) 本家かまどや東大島店(尼崎市大庄北四―一〇―三三所在)

契約締結日 昭和五六年五月二八日

(二) 本家かまどや新伊丹店(伊丹市梅ノ木二―一―一五所在)

契約締結日 昭和五八年九月八日

(三) 本家かまどや苦楽園店(西宮市南越木岩六番五号所在)

契約締結日 昭和五七年一〇月三〇日

(なお、昭和六〇年二月に、苦楽園店の営業場所を同市石刎町一番一八号に変更。)

3  右三店舗に関する各本件加盟契約には、次のとおりの約定がなされている。

(一) 原告は、被告会社に対して、「本家かまどや」の登録商標・サービスマーク等の通常使用権の許諾をする。

(二) 被告会社は、原告に対し、一か月(毎月一日より末日までを一か月とする。)五万円の割合による実施料を支払うものとし、毎月末日限り当月分を支払う(但し、東大島店については、昭和六三年八月末日に該当月の翌月一五日限り支払うと変更する合意がなされた)。

(三) 被告会社は、販売品目・販売価格等につき、原告の指定どおり実施しなければならず、また、品質の低下を防止し、安全性を維持するため、原告の指定する種類の原材料を使用しなければならない。

(四) 被告会社が実施料の支払いを怠ったとき、あるいは本契約の各条項の一つにでも違反した場合は、原告は何等の通知催告を要せず本契約を解除することができる。

(五) 前号により契約を解除されたときは、被告会社は、

(1) 原告に対し、実施料六〇か月分に相当する金員を損害賠償として支払わなければならない(但し、後に三〇か月相当分に変更する旨の合意がなされた)。

(2) 原告の商号・サービスマーク等を一切使用してはならず、また、原告から貸与を受けているもの全てを返還し、かつ、原告の登録商標及び営業上のシンボル(サービスマーク)等を構成するものをその費用負担で撒去(破棄)しなければならない。

(3) 本契約による営業場所において、同業種による同種事業をしてはならない。

4(一)  本件加盟契約に基づく東大島店に関する実施料については、昭和六一年六月末現在において七〇万円の滞納があったところ、さらに同年七月一日から昭和六三年一一月三〇日までの実施料として一四五円が加わり、合計二一五万円となった。これについて、原告は、被告会社から、(1)昭和六三年二月一七日までに合計四五万円、(2)同年四月一八日五万〇〇七八円、(3)同年五月一七日五万円、(4)同年九月二〇日五万円、(5)同年一〇月一八日五万円、(6)同年一一月二二日五万円の支払いを受けたので、同年一一月末現在の未払実施料は、一四四万九九二二円となった。

(二)  本件加盟契約に基づく新伊丹店に関する実施料については、昭和六二年一月末現在において六〇万円の滞納があったところ、さらに同年二月一日から昭和六三年一一月三〇日までの実施料として一一〇万円が加わり、合計一七〇万円となった。これについて、原告は、被告会社から、(1)同年二月一七日までに合計四〇万円、(2)同年四月一八日五万円、(3)同年五月一七日五万円、(4)同年九月二〇日五万円、(5)同年一〇月一八日五万五〇〇〇円、(6)同年一二月一六日四万八三三三円の支払を受けたので、同日現在の未払実施料は、一〇四万六六六七円となった。

(三)  本件加盟契約に基づく苦楽園店に関する実施料については、昭和六二年四月末現在において七五万円の滯納があったところ、さらに同年五月一日から平成元年一月三一日までの実施料一〇五万円が加わり、合計一八〇万円となった。これについて、原告は、被告会社から、(1)昭和六三年二月一七日までに合計四五万円、(2)同年四月一八日五万円、(3)同年五月一七日五万円、(4)同年九月二〇日五万円、(5)同年一〇月一八日五万円、(6)同年一一月二二日五万円、(7)同年一二月一九日五万円の支払を受けたので、同日現在の未払実施料は、一〇五万円となった。

(四)  右(一)ないし(三)の合計額は、三五四万六五八九円となる。

5  被告会社は、苦楽園店において、ライス、焼肉弁当、チキン丼、焼きそば等を原告に無断で原告の指定と異なる販売価格を定めて販売の実施をした。

6  原告は、被告会社に対し、昭和六一年七月から同六三年七月までの間、代金合計八六四〇円に相当する苦楽園店に関するメニューチラシ等を売り渡した。

7  原告は、被告会社に対し、平成元年一月一六日到達の書面をもって、前記4(四)の未払実施料三五四万六五八九円およびチラシ代等八六四〇円の合計三五五万五二二九円を同書面到達の日から一四日以内に支払うよう催告するとともに、右期間の経過をもって前記三店舗に関する各本件加盟契約をいずれも解除する旨の意思表示をした。

8  被告会社は、前記苦楽園店の営業場所である西宮市石刎町一番一八号において、原告から同店に関する本件加盟契約を解除された後も「サンピア」との名称で持ち帰り弁当店の営業を継続している。

9  よって、原告は、被告会社に対し、本件加盟契約に基づき、未払実施料三五四万六五八九円及び損害賠償金合計四五〇万円(五万円×三〇か月×三店舗)並びに前記6の売買契約に基づき、チラシ代等合計八六四〇円の総計八〇五万五二二九円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年二月二六日から支払い済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに、苦楽園店についての本件加盟契約に基づき、西宮市石刎町一番一八号における持ち帰り弁当等飲食物の加工販売の営業をしないよう求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2のうち、苦楽園店の契約締結日を否認し、その余の事実は全て認める。

3  同3のうち、苦楽園店についての損害賠償金支払の合意があったことは否認し、その余の事実は全て認める。

4  同4のうち、被告が原告に対し、実施料として、(一)の(1)ないし(6)、(二)の(1)ないし(6)、(三)の(1)ないし(7)の金員を支払ったことは認めるが、その余は否認する。

5  同5、6の各事実は否認する。

6  同7の事実は認める。

三  抗弁

1(期間の満了)

本件加盟契約には、存続期間を五年間とする特約が存在していた。

2(合意解除)

原告と被告会社は、東大島店については昭和六二年一二月末日に、新伊丹店については同年一〇月末日に、それぞれ右各店舗に関する本件加盟契約を合意解除した。

3(公序良俗違反)

(一)  請求の原因3(五)(1)の損害賠償金支払いの合意は、強者である原告が弱者である被告会社に一方的に強要したものであって、被告会社にとって同条項につき選択の余地はなかったものであるから、公序良俗に違反し、無効である。

(二)  請求の原因3(五)(3)の本件加盟契約解除後の同業種による同種事業禁止の特約は、営業の自由の原則に反するものであるから無効である。

4(実施料額の変更)

本件加盟契約には、実施料の額について、経済情勢の変動が著しいときは双方合意のうえ改定する旨の合意が存在しているところ、他の業者による類似店舗が相次いで付近に出店したことにより、昭和六三年以降、被告会社の営業成績が極端に低下した。かかる被告会社の営業状態からすると、苦楽園店、新伊丹店及び東大島店の各実施料の額は、それぞれ月額三万円、月額二万円、月額一万円に変更されたと解するのが相当である。

5(一部弁済)

被告会社は、昭和六三年四月一八日から同年一〇月一八日までの間に原告に対して合計六〇万五〇七八円相当の実施料を支払った。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2、3の各事実は否認する。

3  同4のうち、東大島店について経済事情の変化が著しいときは双方合意のうえ実施料の額を改定する旨の合意があったことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  抗弁5の事実は否認する。

五  再抗弁(抗弁1について)

(一)  本件加盟契約には、期間満了の一八〇日前に双方より解約を申し出ず、かつ、被告会社が原告に対して一〇万円を支払う限り同契約は自動的に更新するものとし、更新後の期間は三年とする旨の特約が存在していた。

(二)  しかし、本件においては、原告、被告会社いずれからも解約の申し出はなく、また、被告会社は原告に対して一〇万円を支払っていないものの、原告は、従前からどの加盟店に対しても右一〇万円の支払いを免除してきており、更新を希望して営業を継続する加盟店に対しては一〇万円の支払いとは無関係に自動更新を認める取り扱いであって、被告会社に対しても右一〇万円の支払債務を免除しており、三店舗とも営業を継続していたから、本件加盟契約はいずれも更新された。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁のうち、(一)の事実は認めるが、(二)の事実は否認する。

(平成元年(ワ)第九五九号事件)

一  請求の原因

1  平成元年(ワ)第二六〇号事件の請求の原因1と同じ。

2  被告月田は、原告との間で昭和五七年四月一二日、池田市呉服町八番一九号所在の呉服店に関する請求の原因3に記載した内容の本家かまどやチェーン加盟契約(以下「本件加盟契約」という。)を締結した。

3  前記第二六〇号事件の請求の原因3と同じ(但し、被告会社を被告月田に読み変えるものとし、実施料の支払期日の変更及び損害賠償金に関する月数の変更はないものとする。)。

4  本件加盟契約に基づく昭和六一年一一月一日から昭和六三年一一月三〇日までの呉服店に関する実施料は、一二五万円となる。

5  被告月田は、原材料使用及び販売価格等についての原告の指定に従わない。

6  原告は、被告月田に対し、昭和六三年一二月一四日到達の書面をもって、右4の実施料合計一二五万円の未払及び原告の指定不遵守を理由として同年一二月一三日限り本件加盟契約を解除する旨の意思表示をした。

7  被告月田は、池田市呉服町八番一九号において、持ち帰り弁当の製造販売の営業を行なっている。

8  よって、原告は、被告月田に対し、本件加盟契約に基づき、未払実施料一二五万円(五万円×二五か月)及び損害賠償金三〇〇万円(五万円×六〇か月)の合計四二五万円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年六月三〇日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、池田市呉服町八番一九号において、持ち帰り弁当の製造販売の営業をしないよう求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1、2の各事実は認める。

2  同3の事実は争う。

3  同4の事実のうち、本件加盟契約に基づく昭和六一年一一月一日から昭和六二年四月一一日までの実施料が三〇万円となることは認めるが、その余は否認する。

4  同5の事実は認める。

5  同6の事実は認める。

6  同7の事実は否認する。

三  抗弁

1(期間の満了)

前記第二六〇号事件の抗弁1と同じ。

2(指導の先履行)

実施料の支払いについては、先給付として営業の指導を有効に行なうとの約定であった。したがって、原告が有効な指導をしない以上実施料の支払義務はない。

3(公序良俗違反)

損害賠償の特約は、強者である原告の一方的強制の下に、選択の余地なく締結させられたものであるから、公序良俗に違反して無効である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2、3の各事実は否認する。

五  再抗弁

前記第二六〇号事件の再抗弁に同じ(被告会社を被告月田と読み変える。)。

六  再抗弁に対する認否

前記第二六〇号事件の再抗弁に対する認否に同じ。

第三  証拠<省略>

理由

第一(平成元年(ワ)第二六〇号事件について)

一請求の原因について

1  請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  請求の原因2の事実のうち、苦楽園店の契約締結日については、証人田中義緒の証言及び被告会社代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、昭和五七年一〇月三〇日に苦楽園店に関する本件加盟契約が締結され、昭和六〇年二月ころにその営業所の所在地が西宮市石刎町に移転したことを認めることができ、その余の事実は当事者間に争いがない。

3  請求の原因3の事実は、苦楽園店についての損害賠償金支払いの合意の点を除き、当事者間に争いがない。そこで、以下苦楽園店に関する合意の有無について判断する。

<書証番号略>、証人田中義緒の証言によれば、被告会社は、昭和五六年四月一一日に原告との間で尼崎市東大島宇春日三三四所在の西大島店に関する本家かまどやチェーン加盟契約を締結したが、その際、被告会社が同契約(<書証番号略>)の条項に違背した場合には原告は何らの通知催告を要せず同契約を解除でき、その場合、被告会社は原告に対して損害賠償として六〇か月分の実施料(合計三〇〇万円)を支払わなければならない旨の合意がなされていたこと、原告と被告会社は、昭和五六年五月二八日に東大島店につき、同五八年九月八日に新伊丹店につきそれぞれ本件加盟契約を締結し、その際いずれも、被告会社に違約があれば被告会社は実施料六〇か月分に相当する金員(合計三〇〇万円)を損害賠償金として原告に支払う旨の合意をしたこと(当事者間に争いがない。)、原告は、昭和五七年四月一二日に被告月田との間で本件加盟契約を締結したが、同契約においても前同様の損害賠償金支払の合意がなされていたことを認めることができ、右認定に反する証拠はないところ、苦楽園店に関する本件加盟契約は、前記認定のとおり昭和五七年一〇月三〇日に締結されたのであるから、以上の事実に証人田中義緒の証言を総合すると、苦楽園店についても、他の東大島店等の店舗の場合と同様に本件加盟契約を締結するに際して請求の原因3(五)(1)の損害賠償金支払いの合意がなされていたものと認めるのが相当であり、被告会社代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は前記認定の事実に照らして直ちに採用することはできず、他に前記認定を左右するのに足りる証拠はない。なお、東大島店及び新伊丹店につき、右損害賠償金の割合を後に実施料六〇か月分から三〇か月分に変更する旨の合意がなされたことは当事者間に争いがないから、右事実に鑑みると、右両店舗に関して損害賠償金の割合を変更するに際し、苦楽園店についても同様に実施料三〇か月分に変更されたと推認するのが相当である。

4(一)  原告は、請求の原因4の事実のうち、(一)(1)ないし(6)、(二)(1)ないし(6)、(三)(1)ないし(7)の実施料の支払を受けたことを自認している。

(二)  証人田中義緒の証言により真正に成立したものと認められる<書証番号略>と同証言及び弁論の全趣旨によれば、請求原因4(一)ないし(三)のその余の事実が認められる。

(三)  右(一)、(二)の認定事実によれば、被告会社は、実施料支払債務につき履行期を徒過していたことが明らかである。

(四)(1)  そこで、抗弁5について判断するに、<書証番号略>と弁論の全趣旨によれば、被告会社は、原告に対し、実施料の支払として、①昭和六三年四月一八日一五万〇〇七八円、②同年五月一七日一五万円、③同年九月二〇日一五万円、④同年一〇月一八日一五万五〇〇〇円の合計六〇万五〇七八円を支払ったことが認められる。

(2) しかし、前記(一)認定の原告が自認する入金分のうち請求の原因4の(一)(2)、(二)(2)、(三)(2)の合計が一五万〇〇七八円となり、同(一)(3)、(二)(3)、(三)(3)の合計が一五万円となり、同(一)(4)、(二)(4)、(三)(4)の合計が一五万円となり、同(一)(5)、(二)(5)、(三)(5)の合計が一五万五〇〇〇円となることは算数上明らかであるから、右が(1)①に、右が(1)②に、右が(1)③に、右が(1)④に該当(弁済充当)すると推認することができる。

(3) そうすると、被告会社主張の弁済額は、すべて原告の自認する入金額に一致するので、原告の請求額を控除すべき理由はなく、本件においては、その他被告会社主張の弁済が原告の自認する入金額とは別個のものであることを認めるに足りる証拠はない。

(4) よって、被告会社主張の抗弁5は理由がない。

(五)  右(一)、(二)の各認定事実によれば、未払実施料は、三五四万六五八九円となる。

5  書込部分を除き成立に争いがなく、書込部分については証人田中義緒の証言により真正に成立したものと認められる<書証番号略>、及び同証言によれば、請求の原因5の事実を認めることができ、被告会社代表者本人尋問の結果中これに反する部分は前掲各証拠と対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

6  請求の原因6の事実については、<書証番号略>及び証人田中義緒の証言並びに弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。

7  請求の原因7の事実は、当事者間に争いがない。

8  請求の原因8の事実は、被告会社代表者本人尋問の結果によってこれを認めることができる。

二抗弁1(期間の満了)の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、進んで再抗弁について判断するに、(一)の事実については当事者間に争いがなく、証人田中義緒の証言及び弁論の全趣旨によれば、同(二)の事実を認めることができ、右認定を左右するのに足りる証拠はない。

よって、抗弁1は理由がない。

三抗弁2の合意解除の点については、被告会社代表者本人尋問の結果によっては未だこれを認めるに足りず、その他これを認めるのに足りる証拠はないから、同抗弁は理由がない。

四抗弁3(公序良俗違反)について

1  まず、(一)の損害賠償金の支払合意の点について検討するに、被告会社代表者本人尋問の結果によれば、被告会社は、本件加盟契約を締結する前は土木建築関係の仕事をしていたところ、昭和五六年ころ、自己の判断により今後は持ち帰り弁当等の加工販売業が良いのではないかと考え、同年四月ころに原告との間で本件加盟契約を締結し(西大島店)、その後二、三か月のうちに伊丹店、東大島店と手を広げていって、昭和五八年九月ころまでの間に本件三店舗を含む合計六店舗につき同趣旨の契約を締結したことが認められる。本件記録に添付されている原告及び被告会社の各商業登記簿謄本によれば、原告の資本金は二〇〇〇万円であり、被告会社のそれは一〇〇万円であることが認められるが、本件全証拠によってもこれ以上に原告と被告会社間に経済上の著しい優劣関係があったことを認めるに足りず、かえって、前記認定の被告会社が本件加盟契約を締結するに至った経緯に鑑みると、被告会社は、営利を図る目的で、自己の自由な意思で原告チェーン店傘下に入り、むしろ積極的にその事業を拡大していったものと認められるのであって、右の事情に鑑みると、原告が被告会社に対して一方的に損害賠償金支払いの合意を含む本件加盟契約の締結を強要したものとは到底解されないところである。また、<書証番号略>と、証人田中義緒の証言によれば、原告は、商品の画一性を維持して品質低下を防止する趣旨から原材料の購入業者及び原材料を指定し、チェーン店間での価格を統一するために販売価格を指定していたところ、被告会社は、原告の指定業者以外の者から原材料を購入したり、少なくとも苦楽園店において、販売商品の一部のものについて原告の指定に反して無断で販売価格を設定したりしたことを認めることができ(被告会社代表者本人は右認定に反する供述をするが、前掲各証拠に照らしてた易くこれを採用することはできない)、前掲<書証番号略>によれば、原告は、請求の原因7の解除の意思表示の後、平成元年二月三日到達の書面をもって、実施料未払いに加え、原告の指定に反して原材料を他から購入したり販売価格を恣意的に設定していることを解除事由に掲げて改めて本件加盟契約を解除する旨の意思表示をしたことを認めることができるところ、右認定の事実を総合すると、被告会社の右契約違反行為により、原告がこれまでに培ってきた営業上の信用やチェーン店間の同一性、統一性が損われることも十分予想でき、その場合に原告が被ることの予想される損害の程度を総合考慮すれば、損害賠償金の割合として一店舗当たり三〇か月分の実施料に相当する金員(一五〇万円)を損害賠償金の趣旨で支払う旨の特約も原告の被る損害との関係で著しく均衡を失しているということはできず、他に右特約が公序良俗に反することを認めるのに足りる証拠はない。

よって、抗弁3(一)は理由がない。

2  次に、(二)の競業禁止特約の効力の点について検討するに、競業禁止特約はその制限の程度いかんによっては営業の自由を不当に制限するものとして公序良俗に反して無効になる場合があることは否定できないが、一定の営業につき、期間も区域も限定することなく無条件に競業を禁止するような場合は格別、本件のように、競業を禁止する場所を一か所(本件加盟契約における営業場所)に限定し、かつ、競業を禁止する営業の種類も契約存続中と同一業種による同一事業と限定しているような場合で、しかも、本件加盟契約が持ち帰り弁当等飲食物の加工販売の営業を目的とする店舗を被告会社が開設するに際してのいわゆるチェーン店契約であることに鑑みると、右競業禁止特約をすることにつき十分な合理性が認められるとともに、右制限の程度に照らすと、右競業禁止特約によって直ちに被告会社の営業の自由が不当に制限されると解するのは相当でなく、従って、同特約が公序良俗に反するとはいえないものというべきである。よって、同抗弁は理由がない。

五抗弁4(実施料額の変更)について

<書証番号略>と証人田中義緒の証言によれば、本件加盟契約締結に際して、「実施料の額については経済情勢の変動が著しいときは双方合意のうえこれを改定する。」旨の合意が存在していたことを認めることができるが、同証言によれば、右条項にいう「経済情勢の変動が著しいとき」とは、被告会社が主張するように単に個別の加盟店の売上げが他の業者との競争の結果著しく減少したような場合を意味するものではなく、加盟店全体への影響を重視し、物価の変動が著しい場合等を意味するものと解するのが相当であるから、仮に他の業者による類似店の出店が相次いでそのために被告会社の売上げが極端に低下したとしても、それは被告会社の店舗に限られた特殊・個別的な事情の変更にすぎないから、当然に右条項が適用されることにはならない。よって、同抗弁も理由がない。

六結語

1  以上の事実によれば、被告会社の抗弁はいずれも理由がない。

2  従って、原告主張の本件各加盟契約の約定解除権に基づく契約解除は有効であるといわねばならないから、被告会社は、原告に対し、損害賠償金合計四五〇万円の支払義務及び競業避止義務を負うことが明らかである。

3  よって、原告の被告会社に対する本訴請求はいずれも理由がある。

第二(平成元年(ワ)第九五九号事件について)

一請求の原因について

1  請求の原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。

2  請求の原因3の事実については、<書証番号略>によってこれを認めることができ、これに反する証人月田昌福の供述部分は同号証に照らして採用することはできない。

3  請求の原因4の事実のうち、昭和六一年一一月一日から昭和六二年四月一一日までの実施料が三〇万円となることは、当事者間に争いがない。

そして右2の認定事実によれば、請求の原因4のその余の事実が明らかである。

従って、原告主張の約定解除権行使の際には、被告月田は、実施料支払債務につき履行期を徒過していたことが明らかである。

4  請求の原因5の事実は当事者間に争いがない。

5  請求の原因6の事実は当事者間に争いがない。

6  同7の事実(営業の現在性)について

証人田中義緒の証言中には、呉服店の所在場所において被告月田が本家かまどやの看板を外した後も同所で持ち帰り弁当の商売を継続している旨の原告の主張に副う供述部分があるが、伝聞にすぎないうえ、呉服店は昭和六三年ころに他に転売しているためその後は被告月田において営業していない旨の証人月田昌福の証言に照らして証人田中の前記供述部分を直ちに採用することはできず、他に請求の原因7の事実を認めるのに足りる的確な証拠はない。

従って、原告の被告月田に対する競業禁止請求は失当であるといわなければならない。

二抗弁1(期間の満了)の事実は当事者間に争いがないから、進んで再抗弁について判断するに、(一)の事実は当事者間に争いがなく、<書証番号略>、証人田中義緒の証言及び弁論の全趣旨によればその余の再抗弁事実を認めることができ、右認定を左右するのに足りる証拠はない。

よって、抗弁1は理由がない。

三抗弁2(指導の先履行)について

本件加盟契約書(<書証番号略>)中には、「原告は被告月田に対して店舗の繁栄につながる調理並びに経営全般にわたる教育指導をしなければならない」旨の条項(3条6項)が存在するため、実施料の支払いが原告による有効な指導の対価であり、指導が先履行となると解する余地がないわけではないが、同契約書の条項の構成等に鑑みると、実施料の支払いは、加盟店に対する営業指導の対価としてではなく、むしろ、「本家かまどや」の登録商標及びサービスマーク使用の対価として基本的に位置付けられている(一条)と解するのが相当であり、他に実施料の支払いが原告による営業指導等の対価であり、従って営業指導が実施料支払債務につき先履行の関係にあることを認めるに足りる証拠はない。

よって右抗弁は理由がない。

四抗弁3(公序良俗違反)について

証人月田昌福の証言によれば、被告月田の夫である月田昌福が、原告の社長、専務と知り合いだったことから、原告の営業担当者より勧められ、被告月田が持ち帰り弁当等飲食物の加工販売業をやってみようということになったこと、本件加盟契約の締結手続は月田昌福が担当したことがそれぞれ認められるところ、本件全証拠によっても、原告と被告月田及び月田昌福間に経済上の著しい優劣関係があったことを認めるに足りない本件では、原告が被告月田に対して損害賠償金支払い合意を含む本件加盟契約の締結を一方的に強制したものとは到底いえないから、この点に関する主張はその前提を欠き、理由がない。

しかしながら、本件における損害賠償金支払いの合意は、六〇か月分(当初の契約期間と同一)の実施料(三〇〇万円)に相当する金員と極めて高額であって、前記第二六〇号事件の理由四1で説示したように、加盟店の契約違反行為により原告がその営業上の信用やチェーン店間の同一性、統一性を害されるとしても、これにより原告が被ることが予想される損害の程度と比較して著しく均衡を失するというべきであるから、少なくとも適正な賠償予定額を超える部分については公序良俗に反するものとして無効になると解するのが相当である。そこで、右適正賠償予定額について検討するに、原告は本件加盟契約締結後に他の加盟店との関係で一般的に損害賠償金の額を実施料三〇か月分(一五〇万円)に改定していることその他本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すると、右損害賠償金の額は実施料三〇か月分(一五〇万円)をもって相当と認め、その余の部分は無効と解するのが相当である。

よって、原告の請求は右の限度で理由がある。

五結語

以上の事実によれば、原告主張の本件加盟契約の約定解除権に基づく契約解除は有効であるといわねばならないから、被告月田は、原告に対し、損害賠償金一五〇万円の支払義務を負うことが明らかである。よって原告の被告月田に対する本訴請求は、未払実施料一二五万円と損害賠償金一五〇万円の合計金二七五万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年六月三〇日から支払い済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の部分は理由がない。

第三結論

以上に認定、説示したところによれば、被告会社に対する本訴請求と被告月田に対する本訴請求のうちの二七五万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分はいずれも理由があるからこれを認容し(原告が商人であることは前記認定のとおりであり、被告らに対する本訴状送達の日の翌日が原告主張のとおりであることは記録上明白である。)、被告月田に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辰巳和男 裁判官奥田正昭 裁判官山田整)

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